今 敏監督がTIME誌でPerson of the Year 2010に選出

Satoshi Kon - Person of the Year 2010 - TIME
敬愛する今 敏監督がTIME誌でPerson of the Year 2010に選出されました。TIME誌のPerson of the Year 2010の中で“Fond Farewell”、直訳すると「敬意を込めたお別れ」という亡くなった人々から選出される部門で、かのJ.D.サリンジャーらと共に選出されています。

TIME誌のページに掲載された今監督の写真は鏡に映った今監督を捉えています。今監督は特に初監督作品「パーフェクトブルー」で鏡に映った像に登場人物の妄想や他の時空間を投影する演出を多用しており、今監督が一貫して作品で示してきた持ち味である現実と非現実の混交を見事に表した一枚だと思います。その作風は今監督がアニメ監督を務める前の漫画家時代から現れており、最近今監督が亡くなられたことをきっかけに貴重な漫画作品が次々に刊行されています。私も既に購入した作品があり、それについても近くここに書きたいと思っています。以下に私が翻訳したTIME誌の記事を書きます。あくまで素人が翻訳した文章ですので、誤った表現や難解な個所があればご指摘ください。

二流の英雄。これは一般的なアニメーション映画のアーティスト達に贈られる称号である。彼らの作品は最高の賞賛を受けるが、その賞賛を受けるべき製作者はかわいくて弱々しい人間ばかりだと人々は思いこんでいる。今 敏はそんなニッチな身分に心を痛めていた。「私はアニメ監督です」彼は言った。「分かる人は分かるんですよ」そう、今氏は偉大な日本の映画監督だった。彼の死は8月24日、享年46歳。死因は膵臓癌だった。最も尖鋭的で、かつ緻密なアーティスト達の映画の世界を彼の死は奪っていった。
漫画家今 敏が最初にアニメ映画の世界に進んだのは1998年の作品パーフェクトブルーだった。これはファンにストーキングされるポップ歌手の物語だ。アニメの超人宮崎駿のファンタジー映画に比べて、より恐ろしく、官能的なパーフェクトブルーは、イタリア人の映画監督ダリオ・アルジェントのメロドラマ的ジャーロ(スリリングな映画の一分野のこと)からインスピレーションを受けている。
今氏の続いての作品「千年女優」は、小津安二郎の繊細なファミリー映画から、荒廃した東京を描いたゴジラのような雄大な映画まで、様々な日本の実写映画への敬意が込もった、映画の歴史とサスペンスの絶妙なミックスから成り立っている。2003年の「東京ゴッドファーザーズ」はジョン・フォードの「三人の名付け親(3 godfathers)」の面影を持ち、時にクリスマスの団欒のような温かさを見せる。今氏は日本のホームレスの血縁関係がない家族三人組を描いた。
彼が最後に完成させた作品は2006年の「パプリカ」である。この作品もまた、彼の最も複雑な作品である。この殺人の謎を解く鍵は、全ての夢が現実のように見える映画館である。今氏の夢の描写は、視聴者を覚醒しながら催眠状態に落とし込むアニメーションの力を証明している。彼曰く「ロボットたちのロードムービー」という彼の最後のプロジェクトが「夢みる機械」と名付けられたのもうなずける。
今氏は5月18日に彼の死期を告げられた。死後に発表されたメッセージで、彼は彼の家族や同僚への純粋な優しさを込めて文章を書き、その中でも特に信頼のおける2人に対して、「死んだあとの送り出しまで、家内に協力してやってくれぬか。そうすりゃ、私も安心してフライトに乗れる。(中略)じゃ、お先に。」と述べた。
彼の芸術、彼の人生、彼の去り際の気品、全てにおいて、今 敏は一流の英雄である。
リチャード・コーリス 著
この文章の原文は2010年9月13日にTIME詩で出版されたものです。

以上のように、端的かつ表現は日本人からすると馴染みのないものながら、今監督に大変理解のある著者の思いが伝わってくる内容でした。先日のTBSラジオ小島慶子 キラ☆キラ」の中で、映画評論家の町山智浩さんがブラックスワンを解説し、今年ベスト3に入る素晴らしい映画だとしながらも、作品には今監督の「パーフェクトブルー」の影響が色濃く見られ、それを認めないことが残念との旨を話していました。その際、番組の最後に「今監督は偉大な映画監督です」と明確に発言しており、町山さんのポッドキャストについて自身のブログに書くほど町山さんを敬愛していた今監督が、きっと喜んで受け取られるだろうメッセージを発していました。町山さんは自身のツイッターで、今監督と町山さんが互いを敬愛していたのに一度もお会いしたり接点を持てなかったことを大変残念がる旨の発言をしており、生前惜しくもすれ違っていた縁が、ここでつながったのだと私は感動していました。TIME誌と言い、ブラックスワンといい、今監督の影響は間違いなくまだまだ世界に広がっています。その度に感動をくれる今監督への敬意は未だに衰えません。一流の英雄は、これからも静かに私たちを善きものの方へ導いてくれるでしょう。

※12月24日訂正 翻訳文中でジャーロについて誤解していた部分を訂正しました。