今 敏監督追悼企画レポート2

こんにちは。早速前回の補足からさせて頂こうと思います。前回書くのをすっかり忘れていたのが、今さんの闘病生活の話。随所で有名になっていますが、今監督のベッドルームは作業ができるように改良されていて、特に巨大マッサージチェアは「ガンダムのコックピット」と呼ばれていたとか。*1

平沢さん:「机がアームにつながっていて、必要な時にでてくるんです。“平沢さん、ぶら下がってみます?”なんて言われました。」

また、経時的に自動で向きを変える装置のついた見るからにハイテクな車いすなどもあったそうで、今監督は闘病生活までネタにしていたようです。そして、平沢さんが「話がずれるけどいいですか?」と言ってまで提供してくれた“ネタ”がこちら。

平沢さん:「今監督が頭をボウズにしたんですよ」

司会:「ああ、奥さまが切ったという」

平沢さん:「そうそう。それがね、今さんすごく似合っててかっこいいんです!あれは日本兵ですよ!!日本兵!!」

観客:(笑)

平沢さん:「病気が良くなったら、頭はずっとそれで行きましょうって言ってたんですけどね」

病気をネタとしてきちんと消化し、人生のバランスを保つ姿勢を最期まで今さんやその周りの人たちが貫いていたことが伝わってくるエピソードでした。

そして、映画「千年女優」と「パーフェクトブルー」の上映。もう何度もDVDで観ている映画ですが、パプリカから今監督を知った私にとって、この2つの映画をスクリーンで観るのは初めてです。家の小さなディスプレイと音響で観るそれとは大きく違っていました。背景はきちんと景色になり、目がカバーする視野が広がった分、特に千年女優の淡い雪の情景がとても映えていました。千代子が人力車→自転車に乗っていくシーンに打ち出される煙も生き物のように感じられました。そして何より、鍵の君のために初めて千代子が嘘をつく瞬間。あの千代子が女優になった瞬間の声優さんの演技の息遣いが館内に響いた時は、なんとも言えない気持ちになりました。「あぁ、今から走って行くんだね」正に次から次へと映像上を走る演出に、取り残されたいようなついていきたいような焦燥感や今監督と千代子をダブらせてみてしまう自分を感じながら、90分はあっという間に終わってしまいました。「あぁ。こういう“映画”だったんだ」平沢さんの話にもあった、何層にも重なったレイヤーのように、どこまで掘っても「お手上げです」と言いたくなるような今監督の持ち味である緻密さの中に、まだなんとなく勢いで乗り越えた部分が残っているような、パワフルな印象を受けました。

続いて観たパーフェクトブルーは、お客さんのリアクションがとても良かったです。これも映画館ならではですね。結構中身はハードな映画だと知らずに来た方もいらっしゃったようで、特に上映後は「なんなのこれ〜」「聞いてないよ〜」という声も聞かれました。上映当時もこんな感じだったのかなぁ。こういうのもできちゃうんですよね、監督。プロだなぁ。家で観る以上に、映画館では画面の明暗が強調されるので、未麻が「TAKE2!!」や「TAKE3!!」の掛け声とともに明るい部屋のベッドでハッ!と目を覚ます繰り返しのシーンでは、観てるこちらまでその度にハッとさせられました。

私にとってはとても贅沢な時間で、これは今監督の作品を見るといつもなんですけど、決して達せない境地を提示されているのに、感覚ではその境地を手繰れているような、錯覚にも似た快感に溺れた3時間でした。お腹いっぱいではなく、まだまだ溺れたい。浸っていたい。やっぱり、こんなに素晴らしい作品を作れる人は今監督しかいない。もう新作が観れないなんて、本当に残念です。あんなに素晴らしい方がいないなんて、本当に悲しいです。でも、どなたかがおっしゃっていたように、今監督は半分くらい、まだここにいらっしゃるのでしょう。その半分はずっと私たちに残って、受け継がれて、どこかで誰かと影響しあい、共有し合い、人の営みとして繋がっていくのだと思うと、私はまた、前を向いて歩いていける気がします。沢山の世界を見せてくれて、沢山の人との出会いをくれて、直接的にも間接的にも、今監督がいなければ、今の私はありませんでした。ご冥福をお祈りするとともに、本当に心からの感謝の意をこめて。

合掌。

*1:2010/10/15 追記