今 敏監督追悼企画レポート

こんにちは。本来は、いち学生ファンが好きなモノを観てどう思ったかなどということは、それこそ「チラ裏」に書いとけと言われるものだと思いますが、今回の企画は参加人数が非常に限られたものだし、twitterを見ていると、やはり思ったことを発信すると共感が生まれ、発信しなければ存在しなかった意味が生まれるなと日々感じていますので、ブログを書いてみようかと思いました。いきなり堅いな。なんだか気恥ずかしい中、書いていこうと思います。

今 敏監督追悼企画、千年女優パーフェクトブルーの上映会は新宿バルト9で2010年10月9日 24:30から、ドリパスの企画として行われました。
http://www.dreampass.jp/deals/8/
ドリパスとは、ツイッター上でドリパス君 (@dre_pass) | Twitterをフォローして「RT@dre_pass 『ドリパスでつぶやいた映画が新宿バルト9で上映される!?』 http://www.dreampass.jp #dre_pass」というコメント付きで観たい映画をつぶやくと、リクエスト数に応じて映画が上映されるという非常にインタラクティブな企画です。インタラクティブライブで有名な平沢進さんを想起させるような、双方向的なコミュニケーションを好んできた今監督の追悼にはぴったりな企画だったと思います。前売り券販売後に、特別ゲストとして平沢さんのトークイベントが告知され、当日券は徹夜組を含む熱心なファンの方によってすぐに完売になりました。かくいう僕も当日券組でした。「あぁ、オレも熱心なんだなぁ」と思う次第でありますw言い訳をすると、ツイッターでリクエストしたにも関わらず、上映前日まで企画が実現したことに気づいていませんでした。何の言い訳なんだろう。

イベントの開演直前に着いた新宿は激しい雨でした。バルト9の入り口の床が雨で非常によく滑ったのが印象的です。ピカピカなんでしょうね。エレベーターで9回に上がり、エスカレーターでさらに上へ。館内に入ると、スクリーンの下に小ぢんまりと椅子が2脚置かれ、その間に挟まれた丸テーブルにはミネラルウォーターが置かれていました。右側中段の席に座ると、ほぼ同時に館内が明るいまま、今回の企画者でもある司会の方の挨拶が始まりました。緊張のせいか、この司会者の方が中々のカミカミスト。でも、このカミカミが追悼企画という悲しみでなく、ほんわかした笑いの雰囲気を最初に作ってくれた気がします。

「それでは、特別ゲストのミュージさン、平沢進さんです」

の声と共に、拍手の中スタスタとスクリーン右側から平沢さんが登場。馬の骨*1の歓声などはさすがに聞こえませんでした。

司会:「今日は満員御礼なんです」

平沢さん:「あ、そうですか」

司会:「当日券もすぐに売り切れてしまったそうで」

平沢さん:「それはおめでとうございます」

観客:(笑)

非常に穏やかなムードでトークが始まりました。最初は、今監督と平沢さんの出会いの話。要約すると、出会いは1990年代に今監督と、今監督と同郷のライターさんが一緒に取材に来たのが最初だそうです。アニメやマンガに平沢さんは疎いため、最初はかなり失礼な態度をとったかもしれないとのこと。やはり今監督が後ろで髪を束ねていたことが印象的だったようです。ライブには毎回今監督が来てくれるので、出会った後は、ライブの度に客席を見渡して頭一つ出ている人を見つけては、「あ、今日も来てくれてるな」と思っていたそうです。

次は、一緒に仕事をするようになった縁についての話でした。今監督の初監督作品「パーフェクトブルー」の中には、平沢さんを連想させる映像が散りばめられています(劇中のホテルの看板に「HOTEL ハルディン」とあるなど)。映画を観てそのことを知った平沢さんのスタッフが、アルバム制作中の平沢さんにそのことを伝え、制作中のアルバムの帯のコメントを書いて欲しいということになったそうです。恐らくこの仕事でしょう。http://konstone.s-kon.net/modules/recommend/index.php/content0002.html
その後、平沢さんは千年女優の音楽を担当することになるのですが、これが次のアルバム制作時期と重なりました。そこで今監督から出された要望は「主題歌はLOTUSっぽい曲で。後はお好きにどうぞ」。

平沢さん:「今監督が「これ(LOTUS)!」と。でも、そういうのってとても難しいんです。全く同じのを出すわけにいかないし。かと言って、イメージを崩しちゃいけないし」

と言いつつも、平沢さんも気を使ったのか、最初に今監督を安心させるために主題歌「ロタティオン」を作ったそうです。音楽制作時に、平沢さんは今監督から絵コンテしかもらっておらず、どのように映像が展開されるかわかりませんでした。しかし、今監督はいつも平沢さんの音楽を聴きながら映像制作をしていたので、逆に音楽ありきの方が制作しやすかったのではないかとのこと。

平沢さん:「私の音楽から、「お!これいただき!」みたいなこともあったみたいです」
平沢さん:「例えば映像を渡されると、今度はそれに合わせるように、本来は8小節で展開させるものを7小節半で展開させなきゃいけないような難しさがあるんですが、今監督の作り方だとそういうのはあまりないんです。今監督は音楽的に映像を展開させていったのだと思います。ただ、それって恐いですよね。今監督からは言われませんでしたが、映画を観た方から「お前のせいでこうなった!」と言われかねないですから(笑)」

平沢さんの楽曲から多くの発想をもらっていた今監督だったからこそ、平沢さんに任せて大丈夫だろうという思いがあったのでしょうし、平沢さんも今監督となら通じ合ってるだろうというシンパシーがあったんだろうなと感じました。きっと素晴らしい信頼感がお互いにあったのだと思います。

ここで、話は今監督と平沢さんのプライベートのお話へ。

平沢さん:「亡くなる一月ほど前から頻繁に今さんの家に行っていました。これは前からなんですが、その時もいつも私の曲が家でかかってました。私は自分の曲をあまり持っていないので、「私のレアトラックを貸してください」と言いたくなるほどでした」

平沢さんは照れるように話していました。家が遠いこともあって、プライベートで会うのはライブの時くらいだったそうです。

平沢さん:「今監督はすごいバランス感覚の人でした。善意を示したら、今度は悪意でそれをシャレにしちゃうんです」

司会:「ブログに書かれた「さようなら」という文章を読みましたが、やっぱりそういう方なんですね」http://konstone.s-kon.net/modules/notebook/archives/565

平沢さん:「あの文章のままの方だと思ってもらってかまわないと思います。悪意に隠れたすごい善意の人」

この話にはすごく共感しました。作品を通して、その隠れた善意がにじみ出てくるような感覚を何度も味わいましたから。実際にお話した時も、世間のことから、身近なことまで、毒っぽいことを吐きながらも相手を思いやった話し方をされる優しい方だと思っていました。

ここで、観客とのQ&Aタイム。

司会:「せっかくの機会なので、何か質問がある方はどうぞ手を上げてください」

平沢さん:「今さんについてでお願いしますね」

質問された方:「失礼します。今さんに怒りを覚えたことはありますか?」

平沢さん:「ないです(即答)」

観客:(笑)

質問された方:「そうだろうと思いながら質問しました(笑)」

平沢さん:「今監督も私もなんでもネタにしてしまう人間なんです。だから、実際にはケンカしたことはないですが、例えケンカをしたとしても、すぐにネタにして一緒に笑ってたでしょうね」

質問はこのひとつでお終いでした。

司会:「それでは、残念ながら時間がなくなって参りました。最後にこれから上映される千年女優について平沢さんが印象深いシーンや音楽などを教えてもらえませんか?」

平沢さん:「うーん・・・。余り言いたくないんです。というのも、今さんの映画は先ほど話した今さんの性格のように、すごい意地悪ですごい親切な作りなんです。本当に言いたいことの上に何層ものレイヤーがあって、各レイヤーに言いたいことっぽいことが散りばめてあるんです。だから、映画を観て、それぞれの人がそれぞれの層まで映画を掘っていって、それぞれの層に共感できるようになってるんです。本当に言いたいことには中々辿り着けないけど、そうやって観た人に自由を与えてるんです。だから、あえて言いません」

今監督の映画を見てるものとしては、納得の極み。おっしゃるとおりだと思います。そして、再び拍手の中、平沢さんはスタスタと退場。最後にちょっとジャンプして段上から降りたのが可愛かったです← 最後に司会の方が、再びカミカミの締めの挨拶をすると、すぐに館内が暗くなり、当然のようにCMもなく、いきなり映画が始まりました。


大分長くなってしまったので、映画本編についての感想は後日書きたいと思います。終始穏やかな空気の中、平沢さんの話を聞くたびに「そうそう!やっぱりそうですよね!」と共感の山が築かれていくような感覚でした。やはり、いい作品の裏にはいい人達のいい営みがあるんだなと実感した次第です。拙い文章を読んでくださった方、ありがとうございました。話の都合上時系列上の展開を若干変えている部分もあります。訂正を含め、何か思ったところがあれば、是非コメントしてください。

*1:平沢さんのファンのこと